内積と外積

 この記事では内積と外積についてまとめます。特に外積は大学の物理学で重要で、高校物理の力学でも学ぶ力のモーメントや角運動量等もベクトルを使うと外積で表されるためしっかり理解しておきたいです。

1.内積

 内積はベクトル同士の演算の1つで、2つのベクトルの同じ成分同士を掛け合わせたものです。計算結果がスカラーとなるためスカラー積とも呼ばれます。内積は、\(\boldsymbol A=(A_{x}, A_{y}, A_{z})\)、\(\boldsymbol B=(B_{x}, B_{y}, B_{z})\)、2つのベクトル\(\boldsymbol A\)、\(\boldsymbol B\)がなす角を\(\theta\)としたとき、内積の定義は式(1)となります。

$$\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{B}=|A||B|\mathrm{cos}\theta \tag{1}$$

 左辺はベクトル同士の掛け算となっていて、「\(\cdot\)」が内積であることを表します。右辺は\(\boldsymbol A\)の大きさ\(|A|\)と\(|B|\)\(\mathrm{cos}\theta\)の積となります。\(\boldsymbol B\)の大きさ\(|B|\)と\(|A|\)\(\mathrm{cos}\theta\)の積と考えても同じで、図1は内積のイメージです。

B
B
A
A
θ
θ
AB
A・B
|B|cosθ
|B|cosθ
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図1

 2つのベクトルの始点を合わせて表示しています。\(\boldsymbol B\)を\(\boldsymbol A\)に投影した時の大きさは\(|B|\mathrm{cos}\theta\)となり、これに\(\boldsymbol A\)の大きさ\(|A|\)をかけたものが内積になります。図1では\(\boldsymbol A\)を\(\boldsymbol B\)に投影していますが、\(\boldsymbol B\)を\(\boldsymbol A\)に投影して考えても同じことになります。つまり、片方のベクトルがもう一方の方向に対して持つ大きさと、もう一方のベクトルの大きさの積が内積となります。計算結果は1つ値を持つスカラーであるためどちらに投影しても同じ結果となります。式(1)をベクトルの成分を使って表すと式(2)になります。\(x\)成分同士、\(y\)成分同士、\(z\)成分同士をそれぞれ掛け合わせて全て足し合わせると2つのベクトルの同じ方向の積を表す内積となります。

$$\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{B}=A_{x}B_{x}+A_{y}B_{y}+A_{z}B_{z} \tag{2}$$

 内積は2つのベクトルの同じ方向の成分の積なので、図2のように座標系におけるベクトルの成分を求めることができます。\(x\)軸、\(y\)軸の単位ベクトルをそれぞれ\(\boldsymbol{e}_x\)、\(\boldsymbol{e}_y\)とします。\(\boldsymbol A\)と単位ベクトルの内積\(\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{\boldsymbol{e}_x}\)、\(\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{\boldsymbol{e}_y}\)は\(\boldsymbol A\)を各軸に投影することになり各方向の成分となります。

A
A
θ
θ
y
y
ex
ex
ey
ey
x
x
A・ex
A・ex
A・ey
A・ey
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図2

 図2では単位ベクトルが\(\boldsymbol A\)の成分を表す座標系と同じであるため\(\boldsymbol A\)の成分がそのまま座標系の成分になります。図3は\(x\)軸、\(y\)軸が回転して\(x’\)軸、\(y’\)軸となった座標系です。このように異なる座標系になった時にも同様に考えることでその座標系での\(\boldsymbol A\)の成分を求めることができ、図3の座標系では\(\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{\boldsymbol{e’}_x}\)、\(\boldsymbol {A}\cdot\boldsymbol{\boldsymbol{e’}_y}\)が\(\boldsymbol A\)の成分となります。

A
A
θ
θ
y
y
e’x
e’x
e’y
e’y
x
x
A・e’x
A・e’x
A・e’y
A・e’y
x’
x’
y’
y’
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図3

2.外積

 外積もベクトルの演算です。内積は2つの同じ方向の成分の積だったのに対して、外積は2つのベクトルの垂直方向の成分の積です。\(x\)軸は\(y\)軸、\(z\)軸と垂直です。\(x\)軸と垂直な成分\(y\)と\(z\)の積が\(x\)成分となります。\(y\)軸、\(z\)軸についても同様の計算を行うことができ、3つの成分を持つことになるためベクトルになります。計算結果がベクトルとなるため外積はベクトル積とも呼ばれます。外積の定義は式(3)です。

$$|\boldsymbol {A}\times\boldsymbol{B}|=|A||B|\mathrm{sin}\theta \tag{3}$$

 式(3)は図4のようになります。2つのベクトルのなす角を\(\theta\)とすると\(|B|\mathrm{cos}\theta\)と\(\boldsymbol A\)は垂直になり、\(|A||B|\mathrm{sin}\theta\)は平行四辺形の面積となります。

A
A
B
B
θ
θ
|B|sinθ
|B|sinθ
|A✕B|
|A✕B|
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図4

 前述のように外積はベクトルです。図4の面積の大きさはどこかの方向を向いていることになります。その方向は図5に示すように2つのベクトルの両方と垂直になる方向、つまり2つのベクトルを含む平面に対して垂直になります。外積の前側のベクトル(\(\boldsymbol A\))が後ろ側のベクトル(\(\boldsymbol B\))の方向まで回転した時、図5のように右ねじの法則に従う方向が外積の向きになります。

図5

 外積はベクトルをかける順番が異なるとベクトルの向きが異なります。これを表したのが図6で、式(4)として表されます。

AB
A✕B
B
B
A
A
θ
θ
BA
B✕A
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図6

$$\boldsymbol {A}\times\boldsymbol {B}=-\boldsymbol {B}\times\boldsymbol {A} \tag{4}$$

 外積をベクトルの成分を使って表した定義は式(5)になります。

$$\boldsymbol {A}\times\boldsymbol {B}=(A_{y}B_{z}-A_{z}B_{y},A_{z}B_{x}-A_{x}B_{z},A_{x}B_{y}-A_{y}B_{x}) \tag{5}$$

 式(5)の\(x\)成分に注目して考えるために、ベクトル\(\boldsymbol A\)、\(\boldsymbol B\)を\(x\)軸と垂直な\(yz\)平面に投影します。各ベクトルの\(x\)成分を無視して\(y\)成分、\(z\)成分からなる2次元ベクトルとみなすと図7のようになります。

A(Ay, Az)
A(Ay, Az)
B(By, Bz)
B(By, Bz)
z
z
y
y
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図7

 前述のように外積は垂直な成分同士の計算のため\(x\)軸と垂直な\(y\)成分、\(z\)成分の積になります。その組み合わせは2つあり、\(A_{y}B_{z}\)と\(A_{z}B_{y}\)です。成分については\(x\)→\(y\)→\(z\)→\(x\)という順番が正となり、この逆の順番は負となります。ベクトルの順番について\(\boldsymbol A\)が先、\(\boldsymbol B\)が後とした場合図6から正になり、この順番で考えます。\(A_{y}B_{z}\)は\(y\)→\(z\)という順番なので正です。\(A_{z}B_{y}\)は\(z\)→\(y\)という順番で負になるため、\(-\)をつけて\(-A_{z}B_{y}\)とすることで正になります。これらを足し合わせると\(A_{y}B_{z}-A_{z}B_{y}\)となります。これは式(5)の\(x\)成分と一致し、\(x\)軸と垂直方向の成分同士の積により外積の\(x\)成分が決まることになります。\(y\)成分、\(z\)成分についても同様に求めることができます。

参考文献
1.物理のためのベクトルとテンソル、ダニエル・フライシュ著、川辺哲次訳
2.趣味で物理学、広江克彦

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