力の分解と力の合成について扱います。この記事は素人が理解を整理するためにまとめたものです。考え方の1つとして参考になれば幸いです。前回の記事はこちら。
力学の記事一覧と体系図。
1.力の合成
力の合成とは、物体に複数の力がかかっている時に全ての力を足し合わせて、複数の力を1つの力として考えることです。文章で書いてもイメージできないと思うので図を使って説明します。
図1
右上方向の力\(F_1\)と右下方向の力\(F_2\)がはたらいています。2匹の犬が違う方向にリードを引っ張っているような状況でしょうか。この2つの力の合力は図2の赤い矢印として表せます。
図2
力はベクトルなので、ベクトルの足し算になります。\(F_1\)か\(F_2\)を平行移動させるとベクトルの足し算になり赤で示した1つの力として表せます。\(F_2\)を平行移動させた場合は\(F_1\)の始点から\(F_2\)の終点を結んだ矢印が表す力を合力、2つの力を合わせて1つの力として扱うことを力の合成と言います。力学を始めた段階ではベクトルはまだやってない人もいるかもしれないので、ベクトルについてもそのうち書くかもしれないです。
他の例として床に置かれて静止している物体を考えると、重力と垂直抗力がはたらいています。それぞれの力は同じ大きさで逆向きです。そのためこの物体の合力は0となり、力のつりあいは合力が0になる状態とも言えます。運動方程式より加速度も0となり静止し続けます。
2.力の分解
力の分解とは、1つの力を複数の力に分解することです。平面で考えるときは2方向に分解し、高校物理ではこの場合が多いです。3次元空間で考えるときは3方向になります。
例1
図3では斜めに力\(F\)がはたらいています。斜めの力をそのまま考えるのは難しいので、水平方向(\(x\)軸方向)と鉛直方向(\(y\)軸方向)の成分に分けて考えます。ベクトルを\(x\)成分と\(y\)成分に分けて表示するのと同じです。\(F\)は\(F_x\)と\(F_y\)のように分解でき、これを力の分解と言います。この例では直交座標系の各軸方向に分解しているので\(F_x\)と\(F_y\)は垂直になります。必ず垂直というわけではありませんが、高校物理では垂直に分解することが多いです。
図3
例2
もう1つ例を見てみます。角度\(\theta\)の滑らかな斜面に置かれた質量\(m\)の物体について考えます(図4)。これは頻出です。斜面は固定されていて動かないと仮定します。
図4
重力\(mg\)を、斜面に対して平行方向(斜面方向)と斜面に対して垂直方向(法線方向)に分解します。分解したそれぞれの力のことを分力と言います。三角関数の定義から平行方向は\(mg\sin\theta\)、法線方向は\(mg\cos\theta\)になります。何故こうなるのかはそのうち三角関数について書く時にまとめる予定です。この物体がする運動について考えます(図5)。
図5
法線方向で見ると、斜面に向かって重力の分力がはたらいています。水平な面に静止している時と同様に、斜面が重力の分力と同じ大きさの力で物体を押し返します。重力の分力\(mg\cos\theta\)は垂直抗力\(N\)とつりあっていて、斜面に対してめり込んだり浮き上がったりせず斜面上を移動することになります。
$$N=mg\cos\theta\tag{1}$$
斜面方向には重力の分力しかかかっていません。力はつりあっていなくて斜面方向に加速度\(a\)が生じます。
$$ma=mg\sin\theta\tag{2}$$
$$a=g\sin\theta\tag{3}$$
角度が\(\theta\)傾いている分加速度\(a\)が小さくなっています。斜面の傾斜が緩やかだと物体はゆっくり滑り、傾斜が急だと速く滑るイメージです。傾斜が緩やかに(\(\theta\)が小さく)なるほど、重力は法線方向の成分が大きく、斜面方向の成分が小さくなり物体を動かそうとする力の成分が小さくなります。
例1では\(x\)軸方向と\(y\)軸方向に分解しましたが、例2の場合運動する方向の斜面方向と力がつりあう法線方向に分解することで運動を考えやすくなります。考えやすい方向に分解すると良いです。
力を分解する時の\(\cos\theta\)と\(\sin\theta\)について、\(\theta\)=0°、または90°の場合を考えることで間違いを防げます。\(\theta\)=0°では水平な面に置かれることになるため斜面方向に重力ははたらかず0になり、法線方向が\(mg\)になります。\(\theta\)=90°では斜面に沿って自由落下している状態です。斜面方向が\(mg\)、法線方向が0になります。\(\cos\theta\)と\(\sin\theta\)を逆にしていた場合この結果と合わないので間違いに気づけます。分力に\(\theta\)=0°や90°のような極端な場合を考えて確認すると余計なミスを減らせると思います。
3.身近な例
身の回りの例として図6のようなモップがけを見てみます。どのような力がはたらきどのような運動になるか考えてみましょう。モップの質量、重力加速度をそれぞれ\(m\)、\(g\)、手が加える力は一定と仮定します。また、ここでは力のモーメントはつりあっているとして回転については考えません。

図6
モップに注目して考えます。手から水平方向の力\(F_x\)と、鉛直方向の力\(F_y\)を受けます。その合力が手から及ぼしている力\(F\)です。手が加えている力\(F\)を水平方向と鉛直方向に分解していると考えても良いです。
鉛直方向では地面からは垂直抗力\(N\)を受けていて、モップは鉛直方向に動かず水平に移動しています。手が地面に押し付ける力と重力はどちらも下向きで、上向きの垂直抗力\(N\)はそれらとつりあっています。
$$F_y+mg=N\tag{4}$$
水平方向には摩擦力\(f\)がはたらいていて、\(F_x\)の大きさとの大小関係で運動方程式から運動(加速度\(a)\)が決まります。加速・等速(\(a\)=0)・減速のいずれかの等加速度運動です。
$$F_x-f=ma\tag{5}$$

図7
力を図示したものが図7です。モップ全体にはたらく力で考えると、鉛直方向は力がつりあっているので合力は\(F_x-f\)となります。合力は運動方程式に入る力と同じで、合力が運動を決めているということです。余談ですが、ある瞬間における宇宙全体の物体の状態がわかると、運動方程式からその後の運動を計算できるので未来は確定しているという話があります。あなたが今後どう行動するかも決まっているということです。有名なラプラスの悪魔という話で、今は量子力学によって否定されていますが興味があれば調べてみてください。
人がモップから受ける力は、作用反作用の法則により\(F\)、\(F_x\)、\(F_y\)と同じ大きさで逆向きの力です。手はモップから押されることになります。摩擦が出てきましたが次回扱います。
4.例題
図8のように斜面で物体が静止している。物体の質量を\(m\)、重力加速度を\(g\)とする。
(1).摩擦力\(f\)の大きさを求めよ。
(2).斜面の角度\(\theta\)を大きくした時、角度\(\theta_0\)をこえると物体が動きだした。斜面と物体の間の静止摩擦係数\(\mu\)を求めよ。
(3).角度\(\theta’\)(\(\theta’>\theta_0\))では物体は斜面を滑りおりる。斜面と物体の間の動摩擦係数を\(\mu’\)として動摩擦力\(f’\)と加速度\(a\)の大きさを求めよ。
図8
図4の例で斜面が滑らかではない場合についてです。摩擦は次回扱うのでわからない方はよければそちらで。解説も次回の記事の後半に書きますが解答だけ載せておきます。
例題解答
(1).\(f=mg\sin\theta\)
(2).\(\mu=\tan\theta_0\)
(3).\(f’=\mu’ mg\cos\theta’、a=g(\sin\theta’-\mu’ \cos\theta’)\)
1.浜島清利、物理のエッセンス 五訂版、河合出版、2023



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