マクスウェル方程式が表していることについてイメージをつかめるようにまとめていきます。マクスウェル電磁気学は電気と磁気に関する理論です。電気に関する物質として、正の電荷を持つ陽子や負の電荷を持つ電子があります。正と負の異なる電荷同士は引き合い、正の電荷同士、負の電荷同士は反発し合うように電荷が存在することで電気力が働きます。また、磁石と鉄は磁力によって引き合います。磁力の強さを表す量としては磁束密度があり、ある面積を通る磁束密度の総量として磁束という量が使われます。磁力は電流が流れることで発生し、逆に磁束密度が変化することで電流が流れる現象があります。永久磁石からは常に磁力が生じていますが、永久磁石の中にある電子の動きによって磁力が生じています。このように電気と磁気はお互いに影響しあっています。電気と磁気の関係を表したのがマクスウェル方程式で、次の式で表されます。
$$\mathrm{div}{\boldsymbol{E}}=\frac{\rho}{\varepsilon} \tag{1}$$$$\mathrm{div}{\boldsymbol{B}}=0 \tag{2}$$$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{H}}-\frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t}=i \tag{3}$$$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{E}}+\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}=0 \tag{4}$$
式に出てくる文字について、\(\boldsymbol{E}\)は電場、\(\boldsymbol{D}\)は電束密度、\(\boldsymbol{H}\)は磁場、\(\boldsymbol{B}\)は磁束密度を表し、右辺の\(\rho\)は電荷密度、\(\varepsilon\)は誘電率、\(\boldsymbol{i}\)は電流密度を表しています。これらの意味について説明します。マクスウェル方程式に出てくる演算子についてはこちらの記事でまとめています。
マクスウェル方程式を見ていく前に必要な説明をしておきます。電荷が2つ以上あるとき、お互いに力が働きます。電荷(電荷1とします)が存在するとその電荷が周囲に影響を及ぼし、空間に歪みが生じます。この空間に別の電荷(電荷2)が存在するとき、電荷1により歪んだ空間から影響を受けて電荷2に力が生じます。この時に力を受けた電荷2もまた空間に歪みを生じさせているため、電荷1にも力が生じます。この時の空間の歪みを電場といい、式(5)で表されるように電場に誘電率\(\varepsilon\)をかけたものが電束密度です。$$\boldsymbol{E}=\varepsilon\boldsymbol{D} \tag{5}$$
電流が流れる時にも空間に歪みが生じます。電流が流れる導線の近くに磁石や金属を置くと、電流が流れることで生じた空間の歪みによって磁石や金属は導線から力を受けます。この空間の歪みは電場と区別して磁場と呼ばれ、磁場と磁束密度は透磁率\(\mu\)を使って以下の関係があります。$$\boldsymbol{B}=\mu\boldsymbol{H} \tag{6}$$
マクスウェル方程式の意味
マクスウェル方程式を1つずつ見ていきます。$$\mathrm{div}{\boldsymbol{E}}=\frac{\rho}{\varepsilon} \tag{1}$$ 式(1)は静電場でのガウスの法則を表しています。ガウスの法則は電荷を含むように空間を囲んだ時、その囲んだ領域から出てくる電場の量は常に一定であることを表した法則です。式(1)は微分形のガウスの法則と呼ばれます。右辺の\(\mathrm{div}\)は微小な空間からベクトルが流れ出ることを意味する発散と呼ばれる演算子で、負の値を持つときは微小空間にベクトルが入り込むことを表します。式(1)の左辺では\(\mathrm{div}{\boldsymbol{E}}\)なので、微小空間から電場が流れ出ることなります。右辺の\(\rho\)は単位体積当たりの電荷、\(\varepsilon\)は誘電率とどちらも定数なので微小空間から湧き出す電場の量は常に一定ということになります。ここで、電荷密度\(\rho\)は囲んだ空間の中にある電荷の一部であり、電荷の大きさによって右辺も大きくなることから電場は電荷から流れ出ていることになります。
$$\mathrm{div}{\boldsymbol{B}}=0 \tag{2}$$
式(2)は静磁場のガウスの法則です。式(1)と同様に磁束密度の発散を表してますが、静電場の場合と異なり常に0になっています。磁場が生じている空間に対してどのように囲っても、その領域から磁束密度が流れ出ることはないということです。静磁場ではN極のみ、またはS極のみの最小単位の磁荷を持つ磁気モノポールが理論的に存在するとされていますが、現在までに観測はされていません。一定の電場が流れ出す電子や陽子等の電荷に対応するような、磁場を生じさせる磁荷は存在しないということが考えられます。式(2)は磁気モノポールが観測されていないことにも一致します。余談ですが、宇宙の始まりのビッグバンの前に起きたとされるインフレーションでは磁気モノポールが大量に生まれたそうです。インフレーションによる急激な膨張により宇宙の外側まで飛ばされたため現在では観測できないとされています。今の私のレベルでは理解できるような内容ではありませんが、いつか説明できるように勉強していきたいと思います。
$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{H}}-\frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t}=i \tag{3}$$
式(3)はアンペール・マクスウェルの法則です。右辺は単位体積当たりの電流であるため、左辺の結果として電流が生じることを表しています。左辺第一項の\(\mathrm{rot}\)は回転を表す演算子です。ある点の周りに存在するベクトルがその点の周りで回転させようとする強さを表し、渦に似ています。\(x\)軸、\(y\)軸、\(z\)軸の3方向の軸に対して回転させる成分を持つため、\(\mathrm{rot}\)はベクトルで表されます。式(3)では\(\boldsymbol{H}\)であるため、磁場の渦ができると電流が生じることを意味しています。左辺第二項は電束密度の時間での偏微分です。時間で電束密度が変化するとき、電流と同じ次元を持つ値となり変位電流と呼ばれます。この変位電流により、実際に流れる電流が0(右辺が0)の場合でも磁場の渦が生じることになります。変位電流により磁場が生じることにから電磁波が導かれます。
$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{E}}+\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}=0 \tag{4}$$
式(4)はファラデーの誘導法則です。コイルの内側を通る磁束が変化するとき、その変化を打ち消そうとする電流がコイルに流れます。固定されているコイルを通る磁束が変化すると電流が流れますが、逆に磁束が変化しない空間でコイルを動かしたときも磁束が変化したことになり電流が流れます。この現象がファラデーの誘導法則です。式(4)の\(\mathrm{rot}{\boldsymbol{E}}\)は電場の渦で起電力を意味し、\(\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}\)は磁束密度の時間変化であるため上記のような現象を表しています。この式ではコイルの存在に関わらず、ある点において磁束が変化すると電場の渦が生じることを表しています。電場は電荷から生じるだけでなく、磁場からも生じているということになります。式(3)から磁場は電場の時間変化により生じ、式(4)から電場は磁場の時間変化により生じているように、電気と磁気は切り離せない関係となっていることがわかります。
参考文献
1.電磁気学, 砂川重信
2.趣味で物理学, 広江克彦