勾配(grad)、発散(div)、回転(rot)

 この記事ではマクスウェル電磁気学等でよく使われる演算の\(\mathrm{grad}\),\(\mathrm{div}\),\(\mathrm{grad}\)についてまとめます。これらはスカラー関数とベクトル関数に関して偏微分を使って表される演算です。スカラー関数を\(A\)、ベクトル関数を\(\boldsymbol B=(B_{x}, B_{y}, B_{z})\)とすると次のように定義されます。

勾配(gradient)$$\mathrm{grad} {\boldsymbol A}=(\frac{\partial A}{\partial x}, \frac{\partial A}{\partial y}, \frac{\partial A}{\partial z}) \tag{1}$$発散(divergence)$$\mathrm{div} {\boldsymbol B}=(\frac{\partial B_{x}}{\partial x}+\frac{\partial B_y}{\partial y}+\frac{\partial B_{z}}{\partial z}) \tag{2}$$回転(rotation)$$\mathrm{rot} {\boldsymbol B}=(\frac{\partial B_{y}}{\partial z}-\frac{\partial B_{z}}{\partial y}, \frac{\partial B_{x}}{\partial z}-\frac{\partial B_{z}}{\partial x}, \frac{\partial B_{y}}{\partial x}-\frac{\partial B_{x}}{\partial y}) \tag{3}$$

1.スカラー関数、ベクトル関数、偏微分

 初めにスカラー関数、ベクトル関数、偏微分について説明します。スカラー関数は変数が決まると1つの値(スカラー)に定まる関数のことです。身の回りでは温かい空気が上の方に、冷たい空気が下に溜まるように位置によって温度が異なります。空間の座標毎に温度の値が決まるため、温度は位置によるスカラー関数になります。3次元空間内の座標によって温度が違うように、3つの変数(座標)が決まると1つのスカラーを持つような空間をスカラー場といいます。

 ベクトル関数はスカラー関数と異なり、変数が決まると1つのベクトルが定まる関数です。風や水の流れは位置によって流れの強さ(流れる量)と方向が異なり、位置毎にベクトルを持っていると見なせるためベクトル関数になります。空間内の位置が決まると流れの強さと方向というベクトルが1つに決まるような、変数毎にベクトルを持つ空間をベクトル場といいます。

 偏微分は、変数を1つではなく2つ以上持つ多変数関数に対して1つの変数で微分することです。3次元空間では\(x\),\(y\),\(z\)の3方向に関して温度のような値を持っているため、それぞれの方向に移動すると値が変化します。3つの方向のうち1方向のみに注目し、他の2方向については固定して微分することが偏微分です。固定するということはその変数が変化しないように一定の値を取るという意味で、定数と同じように扱うことです。偏微分の例として、\(y\),\(z\)を固定して\(x\)で偏微分すると\(\frac{\partial \boldsymbol A}{\partial z}\) となります。微分と同様に微小時間における関数の値の変化を表しており、\(x\)成分についてこれを表したのが図1です。

x
x
x+Δx
x+Δx
f(x)
f(x)
f(x)
f(x)
f(x+Δx)
f(x+Δx)
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図1

 この図では\(y\)軸と\(z\)軸は一定であるとして固定しています。点\(x\)から点\(x+\Delta x\)へ関数を\(\Delta x\)だけ移動したとき、\(f(x)\)の大きさは\(f(x)\)から\(f(x+\Delta x)\)へ変化します。この時の変化率は式(4)で表せます。$$\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x} \tag{4}$$偏微分したとき\(\Delta x\)の値を0に近づけたとき、点\(x\)において\(f(x)\)がどれだけ変化するかを表す傾きとなり、この傾きを求めることが偏微分になります。偏微分の定義は式(5)です。$$\frac{\partial f(x,y,z)}{\partial x}=\lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x+\Delta x,y,z)-f(x,y,z)}{\Delta x} \tag{5}$$

2.勾配(gradient)

$$\mathrm{grad} {\boldsymbol A}=(\frac{\partial A}{\partial x}, \frac{\partial A}{\partial y}, \frac{\partial A}{\partial z}) \tag{1}$$

 勾配はスカラー関数に関する演算です。式(1)ではスカラー関数を各変数で偏微分した成分からなるベクトルとして表されています。偏微分をしているため各成分はそれぞれの変数における傾きです。ある1点における傾きを全ての方向に分解してベクトルとして表したものが勾配になります。\(x\)成分の勾配は図2のようなイメージで、点\(x\)における傾きが成分になります。

x
x
f(x)
f(x)
f(x)
f(x)
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図2

 3次元空間の中にあるスカラー関数は3方向に対して値が変化するため3方向に対して傾きを持ち、勾配を求めることで3方向の傾きを成分に持つ3次元ベクトルが得られます。

3.発散(divergence)

 $$\mathrm{div} {\boldsymbol B}=\frac{\partial B_x}{\partial x}+\frac{\partial B_y}{\partial y}+\frac{\partial B_{z}}{\partial z} \tag{2}$$

 発散はベクトル関数に関する演算です。ベクトル関数\(\boldsymbol B\)の各成分を、それぞれ対応する変数で偏微分したものの総和で表されていて結果としてスカラーが得られます。発散は図3のように箱から流れ出す大きさを表していて、箱に入るベクトルに対して箱から出ていくベクトルが大きいと箱から流れ出すことになります。逆に箱に入るベクトルが大きいと箱にベクトルが流れ込みます。

Δx

図3

 この箱が微小であるとしたとき、箱は点になります。発散はある点でのベクトルが流れ出す大きさであるため、ベクトル関数の偏微分として表されます。下の図はベクトル関数の偏微分のイメージです。ベクトル場において\(x\)から\(\Delta x\)進んで\(x+\Delta x\)まで進むことを考えます。

xx+Δx

図4

 図4のように点\(x\)におけるベクトルに対して点\(x+\Delta x\)でのベクトルが\(x\)方向に変化した場合、距離\(\Delta x\)の間に\(\boldsymbol B(x+\Delta x, y, z)-\boldsymbol B(x)\)だけ変化します。上記の偏微分と同様に考えると、\(\Delta x\)が0に近づくと点\(x\)におけるベクトルの大きさの変化率が得られます。これを表したのが式(6)です。$$\frac{\partial \boldsymbol B}{\partial x}=\lim_{\Delta x \to 0} \frac{\boldsymbol B(x+\Delta x, y, z)-\boldsymbol B(x)}{\Delta x} \tag{6}$$

 変化率が正であるときは\(x\)から離れる向きの傾向が大きいため、\(x\)からベクトルが流れ出すようなイメージとなります。逆に変化率が負のときは\(x\)に近づく向きの傾向が大きく\(x\)にベクトルが流れ込みます。\(\frac{\partial B_{x}}{\partial x}\)は\(x\)方向の成分ですが、\(y\)、\(z\)も同様に表すことができ、全てを足し合わせたものが発散となります。図5は3次元での発散のイメージです。

図5

4.回転(rotation)

$$\mathrm{rot} {\boldsymbol B}=(\frac{\partial B_{z}}{\partial y}-\frac{\partial B_{y}}{\partial z}, \frac{\partial B_{x}}{\partial z}-\frac{\partial B_{z}}{\partial x}, \frac{\partial B_{y}}{\partial x}-\frac{\partial B_{x}}{\partial y}) \tag{3}$$

 回転も発散と同様にベクトル関数に関する演算です。式(3)の\(x\)成分に注目すると、\(\boldsymbol B\)の\(z\)成分を\(y\)方向に偏微分したものと\(\boldsymbol B\)の\(y\)成分を\(z\)方向に偏微分したものの差となっています。図6のように点Cを中心とする微小面積について考えます。\(\frac{\partial B_{z}}{\partial y}\)の部分を表しています。この図では\(x\)がある値を取るときの\(yz\)平面を切り取ったもので、\(x\)軸は正面のこちら側を向いています。

Δy
Δy
x
x
y-Δy/2
y-Δy/2
z
z
Bz
Bz
(x, y+Δy/2, z)
(x, y+Δy/2, z)
Bz
Bz
(x, y-Δy/2, z)
(x, y-Δy/2, z)
z
z
y
y
C
C
y+Δy/2
y+Δy/2
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図6

 \(B_{z}\)は\(\boldsymbol B\)の\(z\)成分であるため、\(z\)軸と平行になります。\((x,y-\Delta y/2,z)\)から\((x,y+\Delta y/2,z)\)へ\(\Delta y\)移動したとき、\(y\)軸が\(\Delta y\)だけ変化することで\(\boldsymbol B\)の\(y\)成分も変化します。移動方向がベクトルの向きと垂直なため、力のモーメントと同様のイメージで\(B_{z}\)により\(x\)軸周りの回転が生じます。回転の向きは、右ねじの法則で決まり、回転の中心軸が進む方向に対して右回りが正です。図6では\(x\)軸がこちら側を向いているため図の向きが正となります。式(3)\(x\)成分の全ての項について考えると図7のようになります。

z
z
y
y
z+Δz/2
z+Δz/2
z-Δz/2
z-Δz/2
Bz
Bz
Bz
Bz
By
By
(x, y-Δy/2, z)
(x, y-Δy/2, z)
By
By
x
x
(x, y, z+Δz/2)
(x, y, z+Δz/2)
(x, y+Δy/2, z)
(x, y+Δy/2, z)
(x, y, z-Δz/2)
(x, y, z-Δz/2)
y+Δy/2
y+Δy/2
y-Δy/2
y-Δy/2
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図7

 図6では全ての成分が右回りになるようにベクトルを表しています。先ほどの\(B_{z}\)では\(\Delta y\)移動するときのベクトルの変化が正であるため正方向の回転となっていました。\(B_{y}\)については\(\Delta z\)移動するするとベクトルは正から負へと変化することになり、\(B_{z}\)の場合と逆になります。回転(rotation)の各成分は、回転軸以外の2つの軸方向のベクトルが回転を生じさせようすることを表していて、回転の正方向が軸により異なるため2つの成分の差として表されることになります。各軸を中心とする回転が存在するため、回転(rotation)はベクトルです。他の成分も同様に表せますが、\(y\)成分だけ符号が逆になります。あまり詳しくは知りませんが、\(x\)、\(y\)、\(z\)という順番として横軸に早い方の軸となるように座標を取った時に、\(y\)成分についてのみ回転軸が離れる方向に向いています。平面に対して回転の正方向が異なるため符号が逆になります。これが私のイメージで1つの解釈です。

 今回の記事は以上になります。次の記事では今回の演算に大きく関わる∇演算子についてまとめています。

参考文献

1.物理のためのベクトルとテンソル、ダニエル・フライシュ著、川辺哲次訳

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