1.はじめに
波には光や音等身近な自然現象が数多く存在しています。波を表したものが波動定式です。この記事では1次元の波動方程式の導出についてまとめています。初めに導出する波動方程式を式(1)に表します。
$$\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=v^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \tag{1}$$
2.1次元の波動方程式の導出
ギターのようにピンと張った弦を弾いた時の弦の振動について考えます。高校物理で学ぶ弦の振動と同じ状況です。導出では弦の一部となる微小要素について考えます。
図1
図2
図1に振動している弦を示します。この弦の一部分に注目して、微小要素に働く力を表したのが図2です。\(x\)軸が水平方向の変位、\(u\)軸が鉛直方向の変位を表しています。弦が弾かれて振動し、弦が中心より上側にある状態です。ここで波動方程式の導出の手順を示しておきます。
導出の手順
1.弦の微小要素に働く鉛直方向の力\(F\)を求める
2.弦の微小要素の運動方程式を立てて鉛直方向に働く力\(F\)を代入する
導出の前に使用する数式を示しておきます。\(\theta\)が微小であると仮定すると\(\sin \theta\)と\(\tan \theta\)は次のように近似されます。これはテイラー展開を使用して導かれます。テイラー展開については別の記事でまとめる予定です。
\(\mathrm{sin} \theta ≒ \mathrm{tan} \theta \tag{1}\)
\(\mathrm{cos} \theta ≒ 1 \tag{2}\)
また、図2のAB間の弦を直線として考えます。どんな曲線であっても、\(x\)軸が微小距離\(\Delta x\)になるまで拡大するとその区間の間は直線になると考えることができます。図2ではAB間の距離が\(\Delta x\)であるため線形になり、水平方向が\(\Delta x\)増加すると鉛直方向が\(\Delta u\)増加するような傾きになっています。
2.1 弦の微小要素に働く鉛直方向の力\(F\)を求める
ここから上述の手順で導出していきます。図2の微小要素の両端はそれぞれ張力により引っ張られています。弦に働く張力は一定のためどちらもその力は\(T\)になります。張力\(T\)の向きは弦の接線方向です。点Aでは\(\theta_1\)、点Bでは\(\theta_2\)の方向に張力が働きます。AB間を直線とみなしていますが、その外側の区間については直線ではないため両端の張力は同一直線上にはありません。微小要素と両端で繋がっている相手側のそれぞれの弦に張力が働いていて、微小要素にはその反力として張力が働いていると考えると私はイメージしやすかったです。点Aと点Bで傾きが異なっているため、張力の向きも異なることになります。もし両端の張力が同一直線上にある場合は力が釣り合うため静止することになります。張力の鉛直成分の差が鉛直方向に働く力\(F\)になり、弦を動かす力になります。この節では\(F\)を求めることが目標です。
ここで、微小要素の\(\theta_{1}\)、\(\theta_{2}\)が微小であると仮定します。それぞれ点Aと点Bでの弦の角度です。式(2)より張力の水平成分はそれぞれ次のように近似できます。
点A:$$T\mathrm{cos} \theta_{1} ≒ T$$
点B:$$T\mathrm{cos} \theta_{2} ≒ T$$
つまり角度が微小である場合は水平方向は力がつり合っていることになります。振動している弦が左右に移動せず上下方向のみに振動していることを表していて、実際の現象にも合っています。次に張力の鉛直成分を式(1)を用いて近似すると式(3)、(4)になります。点Aが\(T_1\)、点Bが\(T_2\)です。
点A:$$T_1=T\mathrm{sin} \theta_{1} ≒ T\mathrm{tan} \theta_{1}=T\frac{\Delta u}{\Delta x}=T\frac{\partial u(x)}{\partial x} \tag{3}$$
点B:$$T_2=T\mathrm{sin} \theta_{2} ≒ T\mathrm{tan} \theta_{2}=T\frac{\partial u(x+\Delta x)}{\partial x} \tag{4}$$
点Bにおける変位\(u(x+\Delta x)\)は式(5)のように変形できます。前述のように微小要素は線形であり、傾きは\(\frac{\partial u(x)}{\partial x}\)になります。AB間を線形とみなしているためこの区間内では\(\frac{\partial u(x)}{\partial x}\)は一定となり、点Aから点Bまで水平方向に\(\Delta x\)増加する間の鉛直方向の増加量は、傾きに変位量をかけて\(\frac{\partial u(x)}{\partial x}\Delta x\)になります。1次で近似したテイラー展開と同じです。
$$u(x+\Delta x)≒u(x)+\frac{\partial u(x)}{\partial x}\Delta x \tag{5}$$
式(5)を式(4)に代入して微分して\(T_2\)を求めます。\(\frac{\partial u(x+\Delta x)}{\partial x}\)は点Bの右隣の微小要素の傾きです。
$$T_2≒T\frac{\partial u(x+\Delta x)}{\partial x}≒T\bigg(\frac{\partial u(x)}{\partial x}+\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\Delta x\bigg) \tag{6}$$
以上より鉛直方向に働く力\(F\)は式(7)で表されます。
$$F=T_2-T_1=T\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\Delta x \tag{7}$$
図2(再掲)
ここで導出から離れて式(7)を図2を例に考えてみます。導出が目的の方は飛ばしてください。図2では弦が元の位置に対して上側にある状態です。右側に進むにつれて傾きが小さくなっています。この場合\(\theta_{1}\)は\(\theta_{2}\)より大きくなるため、\(T_{1}\)は\(T_{2}\)より大きくなります。したがって下向きの力\(F\)が働きます。式(7)の\(\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\)は傾きの変化を表しています。傾きの変化が負ということは\(\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\)が負になり、\(F\)は下向きに働くことになります。逆に弦が下側にある場合は傾きの変化が正になり、上向きの力が働きます。弦の位置と逆向きに力が働くことになり、この力が中心に戻そうとする復元力になって単振動になります。弦が上側、または下側に動いていきどこかで動きが止まります。この位置が変位の最大値で振動の振幅です。また、傾きと傾きの変化も最大になり鉛直方向の力\(F\)も最大になります。ここから動き始めて加速していき中心で速度が最大になります。この位置では傾きは0なので力も0になります。
ここまで張力の鉛直成分について考えましたが、点Aと点Bは\(\Delta x\)離れているためモーメントが働きます。上側では左回り、下側では右回りのモーメントになっており、\(F\)と同様に変位が大きくなるほどモーメントも大きくなります。弦の微小要素は上下の運動だけではなく傾きが変化しながら動いていて、モーメントが働くことで回転運動を含む動きになっています。
導出に戻って、垂直方向の運動方程式を立ててここで求めた鉛直方向の力を代入します。
2.2 弦の微小要素の運動方程式を立てて鉛直方向に働く力\(F\)を代入する
弦の微小要素に働く張力について水平方向は釣り合っていたので、鉛直方向について運動方程式を立てます。微小要素の質量を\(m\)とすると式(8)になります。
$$F=m\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} \tag{8}$$
傾きが微小なので\(\Delta l\)を\(\Delta x\)とみなしてもいい気もしますが、弦の単位長さ当たりの質量を表す線密度\(\rho\) [kg/m]、AB間の距離\(\Delta l\)を用いて質量\(m\)を計算していきます。
$$m=\rho\Delta l \tag{9}$$
\(\Delta l\)を直線とみなしているので、三平方の定理より\(\Delta l\)は
$$\Delta l=\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta u)^2}=\sqrt{1+\bigg(\frac{\Delta u}{\Delta x}\bigg)^2}\Delta x \tag{10}$$
\(\frac{\Delta u}{\Delta x}\)は弦の傾きなので\(\frac{\partial u}{\partial t}\)と変形して式(10)を式(9)に代入。
$$m=\rho\sqrt{1+\bigg(\frac{\partial u}{\partial x}\bigg)^2}\Delta x \tag{11}$$
テイラー展開より根号部分を近似します。\(t=\frac{\partial u}{\partial x}\)と置くと考えやすくなります。
$$m=\rho\bigg\{1+\frac{1}{2}\bigg(\frac{\partial u}{\partial x}\bigg)^2\bigg\}\Delta x \tag{12}$$
\(\theta_{1}\)を微小と仮定しているので傾きは微小になるため、\((\frac{\partial u}{\partial t})^2\)を無視すると式(13)になります。
$$m≒\rho\Delta x \tag{13}$$
これで質量\(m\)が求まりました。これを式(8)に代入します。
$$F≒\rho\Delta x\frac{\partial u}{\partial t^2} \tag{14}$$
この力\(F\)は2.1で求めた張力と等しくなるので、式(7)を代入。
$$\rho\Delta x\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=T\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\Delta x \tag{15}$$
$$\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{T}{\rho}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \tag{16}$$
張力\(T\)の単位は[\(\mathrm{kg}\cdot\mathrm{m}/\mathrm{s}^2\)]、密度\(\rho\)は[\(\mathrm{kg}/\mathrm{m^3}\)]。したがって\(T/\rho\)の単位は[\(\mathrm{m}^2/\mathrm{s}^2\)]となり、速度の2乗になります。\(T/\rho\)を速度\(v\)を使って表すと式(17)となり、式(1)で示した1次元の波動方程式が導かれました。
$$\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=v^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \tag{17}$$
速度\(v\)は位相速度と呼ばれ、波が伝わる速度になります。次に位相速度について考えてみます。
3.変位速度について
波動方程式の位相速度が波の伝わる速度になるということについて考えた結果をまとめます。式(17)は様々な解を持ちますが、ここでは式(18)のような正弦波を考えます。振幅の大きさを1、\(x\)と\(t\)の係数をそれぞれ\(a\)、\(b\)としています。
$$u=\mathrm{sin}(ax+bt) \tag{18}$$
式(18)を波動方程式に代入して偏微分すると次の関係が得られます。
$$-b^2\mathrm{sin}(ax+bt)=-v^2a^2\mathrm{sin}(ax+bt)$$
$$b^2=v^2a^2$$
$$b=\pm{va}\tag{19}$$
\(b=-va\)を式(18)に代入します。
$$u=\sin a(x-vt) \tag{20}$$
ここでは詳しく説明しませんが、\(x-vt\)は右向きの波、\(x+vt\)は左向きの波になります。式(20)の波を表したのが図3です。この波の周期を\(T\)、波長を\(\lambda\)として位相速度\(v\)との関係を見ていきます。
図3
図3はある時刻\(t\)の波で、横軸が\(x\)、縦軸が\(u\)となっており、同じ形の波が周期的に繰り返されています。このような波の場合は点A、点B、点Cのように同じ傾きが周期的に何度も現れます。この周期が\(T\)、波長が\(\lambda\)となります。傾きが位置によって周期的に繰り返されるということは、その傾きの変化も周期的に変化することになります。波動方程式右辺の\(\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\)がこの動きを表すことになります。左辺の\(\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}\)は微小要素の垂直方向の加速度を表していて、右辺の\(\frac{\partial^2 u(x)}{\partial x^2}\)と同じ周期\(T\)で動くことになります。この2つの偏微分は等号で結ばれているため同じ動きをするはずです。その時の右辺の係数が\(v\)になります。\(v\)を調べるために次の条件を考えます。
$$a(x-vt)=\phi_0+2n\pi\quad(n=1,2,…) \tag{21}$$
右辺は式(20)の位相です。この条件は点A、B、Cのように傾きが等しくなる位置での位相を表しています。点Aの位相を\(\phi_0\)としています。正弦波はある位置から1周期(2\(\pi\))進むと元の位置と同じ値になるため、点Aから点Bまで進むと位相は2\(\pi\)、点Aから点Cまで進むと4\(\pi\)進みます。式(21)は点Aから\(n\)周期進んだ位置での位相を表しています。右辺に時間\(t\)は含まれていないため、時間で微分すると式(22)が得られます。
$$\displaystyle \frac{ \mathrm{d} x}{ \mathrm{d} t}=v \tag{22}$$
\(x\)方向の時間微分が位相速度\(v\)になっており、\(x\)方向に進む速度が位相速度になっていることがわかります。周期、波長、位相速度の関係は、1周期の間に位相速度で進む距離が波長となるので以下のようになります。
$$\lambda=vT \tag{23}$$
また式(20)の\(a\)を式(24)とおいて、式(23)の関係を使うと式(25)になります。
$$a=\frac{2\pi}{\lambda} \tag{24}$$
$$u=\sin 2\pi(\frac{x}{\lambda}-\frac{t}{T}) \tag{25}$$
この波は式(23)の関係を持つ波になります。図4はこれを反映させた図です。
図4
波動方程式の例に電磁波があります。電磁波の導出の記事も参考にどうぞ。
参考文献
1.波動方程式の解き方、須藤彰三
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