特殊相対性理論の歴史

 これから特殊相対性理論について勉強したことをまとめていきます。この記事では特殊相対性理論の理論が導かれるまでの歴史についてまとめています。

1.重要な式はアインシュタイン以前に提案されていた

 相対性理論といえばアインシュタインが全て作り上げたというイメージを持っている人が多いと思います。私はそうでした。しかし、特殊相対性理論で登場する重要な座標変換の式であるローレンツ変換には、アインシュタインではなく電磁気学で活躍した物理学者であるヘンドリック・ローレンツの名前がついています。ローレンツはアインシュタインが特殊相対性理論の論文を発表する前に、特殊相対性理論に重要な式を完成させていたのです。アインシュタインはローレンツとは異なる方法でローレンツ変換を導きました。また、ローレンツとは別にポアンカレという数学者もローレンツ変換にたどり着いていたようです。

 

2.特殊相対性理論は電磁気学から始まった

 アインシュタインが特殊相対性理論を提案する前にローレンツ変換は提案されていましたが、そのための導出には電磁気学のマクスウェル方程式が使われました。

 マクスウェル方程式を変換していくと電磁波を表す波動方程式が得られます。その時の波の伝播速度を表す定数が光速と一致したため光は電磁波の一種であると考えられました。この電磁波の速度は定数であるため誰から見た時の速度なのかが問題になりました。同じ電磁波(光)を静止している人が見た時と、高速で移動している人が見た時とで電磁波の速度は同じに見えるのか異なって見えるのかということです。一般的な感覚だと、相対速度が異なるので光速は異なるように感じます。これについてアインシュタインは次のような思考実験を行いました。

 光速で移動している乗り物に乗っている人が、進行方向を向いて鏡を見たときに自分の顔が映るかどうかというものです。

 光と同じ方向に同じ速度で移動しているため、顔を反射した光は鏡にたどり着くことはないのでしょうか。これについてはまた後程説明します。

 もう一つ電磁気学で当時生じた疑問として、S極の磁石とN極の磁石の間に導線を近づけた時、①静止している磁石と一緒にいた人と②導線と一緒に移動している人とで現象が異なるというものがありました。どちらも電流が生じますが、①の人にとっては導線内の電子がローレンツ力を受けることで電流が生じます。それに対して②の人にとっては磁石が近づくことで磁場が変化し、電磁誘導により①の時と同じ電流が生じます。同じ電流が生じる現象でも立場が異なることで説明が異なることになります。

 このような疑問から特殊相対性理論は始まりました。2つの疑問はどちらもマクスウェル方程式が元になっています。異なる立場でもマクスウェル方程式が不変になるように座標変換したものがローレンツ変換になります。これはのちにアインシュタインが導いた式と同じものです。ローレンツが導いた際には光がエーテルという物質を媒質として伝わっていると仮定して導きました。エーテル理論について次の節で説明します。このように特殊相対性理論は電磁気学と深くかかわっている学問になります。ちなみにアインシュタインも1905年に特殊相対性理論を発表した論文では運動している物体の電気力学に関する内容から始まっています。

 電磁波を表す波動方程式の導出を次の記事でまとめています。興味のある方はどうぞ。

3.エーテル理論

 相対性理論に関する話としてエーテル理論について説明したいと思います。波が伝わるためには媒質が必要です。例えば音は空気を媒質として伝わっています。光は太陽等から宇宙空間からも地球まで届いています。宇宙空間は真空であるため何か媒質が必要になります。これを説明するために当時は電磁波が伝わる媒質として宇宙全体にエーテルという物質が存在していると信じられていました。このエーテルを伝わって真空の宇宙空間を伝わって地球まで届いているということになります。

 エーテルの存在を確かめようとした実験として有名なのがマイケルソン・モーリーの実験です。エーテルは宇宙全体に存在していて、地球は宇宙を非常に大きな速度で移動しているためエーテルが存在していれば何かしらの影響を受けるはずです。車で走っているときに窓から手を出したときに風を受けるのと似ています。マイケルソン・モーリーの実験では、1本の光を地球の進行方向と垂直方向の2方向に分け、鏡に反射させて1本の光に戻すという実験を行いました。進行方向に進む光はエーテルの風に逆らって進むため垂直方向に進む光より遅くなるはずであり、1本の光に戻った時に位相に差が生じていれば光はエーテルの影響を受けていることになります。

 このようにしてエーテルの存在を証明しようとしましたが、結果としては位相がずれることはなくエーテルは存在しないという結論となりました。エーテルが存在しないという事を証明することになり、後にマイケルソンはノーベル物理学賞を受賞しました。もしエーテルが存在していれば高校物理で学ぶ相対速度と同じような考え方で光を扱うことができましたが、光についてはそういうわけにはいかなくなりました。

4.特殊相対性理論で重要な2つの原理

 特殊相対性理論を導くために「相対性原理」と「光速度不変の原理」が重要になります。

4.1.相対性原理

 相対性原理はガリレオ・ガリレイが提案した原理で、身近な現象として体験したこともあると思います。電車に乗っているとき、一定の速度で走行している際に自分が進んでいるのか止まっているのかわからなくなることがあるかと思います。走行することによる振動はないものとすると外を見ない限りは自分が進んでいるのか止まっているのかは知ることはできません。また、地球は猛スピードで自転、公転をしていますが、それを実感することはできず静止していると感じるでしょう。

 実際に、静止している人と等速直線運動をしている人とで同じ実験を行った場合まったく同じ結果が得られます。速度が変化すると慣性力がかかるので速度の変化はわかりますが、一定の速度で進んでいる場合に限ってはどのような速度で移動していても同じ物理現象が現れます。これが相対性原理です。

 ここで先ほど紹介したアインシュタインの思考実験について考えてみます。

光速で移動している乗り物に乗っている人が、進行方向を向いて鏡を見たときに自分の顔が映るかどうかというものです。

 この時光と一緒に進んでいると仮定して、光が鏡まで到達することなく顔が映らなかったとした場合、自分が光速で進んでいるという事がわかるという事になってしまいます。これは相対性原理に反しています。つまり、光と一緒に進んでいるという仮定か相対性原理のどちらかが間違っていることになります。アインシュタインは前者が間違っていると考え、次のようなことを原理として考えました。

4.2.光速度不変の原理

 これは光源の速度によらず、光の速度は一定であるという原理です。静止している光源から出た光も、高速で移動している光源から出た光も同じ速度であるということです。この原理を用いて、速度の実測値から速度はある一定の値を持つことがわかっています。これにより、顔を反射した光もある一定の速度で進むことになり鏡には顔が映ることになり相対性原理にも反しません。直観には反しますが、このことを原理として理論を進めていったものが特殊相対性理論になります。

5.特殊相対性理論

 最後に特殊相対性理論がどのような理論かをまとめて終わります。

 静止した座標系にいる人(A)と、ある速度で等速直線運動をしている人(B)がいるとします。相対速度で考えるとAとBとで光の速度は異なって見えるはずです。光速が一定であるという仮定をしてA、Bどちらの座標系でも光速が同じに見えるような座標変換をします。これがアインシュタインがローレンツ変換を導いた方法です。特殊相対性理論ではこのローレンツ変換を行うことで物理現象を見ていきます。この変換により時間や空間について直観に反する結論がたくさん出てきます。

 私もこれから勉強していく立場なので、色々学んでいきたいと思います。次は相対性原理について詳しくまとめようと思っています。次回もよろしくお願いします。

参考文献
1.相対性理論、内山龍雄
2.趣味で相対論、広江克彦
3.宇宙創成、サイモン・シン、青木薫 訳

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