相対性原理

 今回の記事では相対性原理についてです。特殊相対性理論の歴史を次の記事でまとめています。特殊相対性理論に重要な相対性原理光速度不変の原理について説明しているので、それらを知らない方は先に読んでおくことをおすすめします。

1.ガリレオの相対性原理

 初めにガリレオが提案した相対性原理について説明します。相対性原理はアインシュタインが特殊相対性理論を導いた中で重要な役割を持っています。詳しくは上述の関連記事に記載しています。

 相対性原理とは、あらゆる慣性系で力学法則が同じように成り立つという原理です。慣性系とは一定速度で運動している座標系のことです。相対性原理の例として、静止している座標系にいる人と時速100km/hで進んでいる電車に乗っている人が同じように物を落としたとすると、どちらも真っすぐ真下に落ちるはずです。静止している座標系も時速100km/hで移動している座標系も違いはなく、どちらも同じ力学法則が成り立ちます。ここでは静止している座標系と表現しましたが、地球は自転していて更に太陽の周りを公転しています。静止しているように感じていても宇宙から見ると猛スピードで進んでいることになります。それにも関わらず静止していると感じるのも相対性原理から言えることです。

1.1.ガリレイ変換

 相対性原理を数式で表したものはガリレイ変換と呼ばれています。ガリレイ変換について考えるために2つの座標系\(O\)、\(O’\)を考え、2つの座標系の相対速度を\(V_x\)とします。簡単にするために相対速度は\(x\)軸方向のみとしています。これを表したのが図1です。

\(V_xt\)
\(\boldsymbol{O}\)
\(\boldsymbol{…
\(x’\)
\(y’\)
\(z’\)
\(x\)
\(y\)
\(z\)
\(V_x\)
\(x’\)
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図1

 時間\(t=0\)の時に\(\boldsymbol{O}\)、\(\boldsymbol{O’}\)は一致しているとし、\(\boldsymbol{O’}\)は\(x\)軸上を速度\(V_x\)で移動していることを表しています。\(t\)秒経過後、\(\boldsymbol{O}\)から見て\\(\boldsymbol{O’}\)の\(x’\)上の任意の点\(x’\)を表すと式(1)になります。

$$x=x’+V_xt \tag{1}$$

 \(t\)秒間速度\(V_x\)で進んだ時の\(\boldsymbol{O’}\)の原点の位置\(V_xt\)と、\(\boldsymbol{O’}\)の原点から任意の点\(x’\)までの距離の和として表されます。逆に\(\boldsymbol{O’}\)から見て点\(x’\)を表すと式(1)になります。

$$x’=x-V_xt \tag{2}$$

 \(\boldsymbol{O’}\)の座標系から\(x’\)までの距離は、\(\boldsymbol{O}\)の座標系で表した\(x’\)までの距離から\(t\)秒間速度\(V_x\)で進んだ時の\(\boldsymbol{O’}\)の原点の位置\(V_xt\)を引いて表せることを意味しています。今回は\(x\)成分のみ示しましましたが、ほかの成分も同様にして表せます。

$$x’=x-V_xt $$
$$y’=y-V_yt $$
$$z’=z-V_zt $$
$$t’=t \tag{3}$$

 第四式は、ガリレイ変換では慣性系ごとに時間の流れは変わらないことを仮定しています。第三式までをベクトルで表すと式(4)になります。

$$\boldsymbol{r’}=\boldsymbol{r}-\boldsymbol{V}t \tag{4}$$

 式(4)を微分すると速度に関する式(5)、式(5)を微分すると加速度に関する式(6)が得られます。

$$\boldsymbol{v’}=\boldsymbol{v}-\boldsymbol{V} \tag{5}$$

$$\boldsymbol{a’}=\boldsymbol{a} \tag{6}$$

式(5)は2つの座標系間で相対速度\(\boldsymbol{V}\)の差があることを表し、式(6)はガリレイ変換により加速度の変化がないことを表しています。また、慣性系による質量の変化はないと仮定すると(式(7))、運動方程式を式(8)のように表せます。

$$m’=m \tag{7}$$

$$\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a}=m’\boldsymbol{a’}=\boldsymbol{F’} \tag{8}$$

 式(8)より、ガリレイ変換により運動方程式は不変になり、変換後も運動方程式は同じ形で表されます。先程も述べましたがガリレイ変換で表される相対性原理は、あらゆる慣性系で力学法則が同じように成り立つことを示しています。

2.アインシュタインの特殊相対性原理

 光速度不変の原理では光源の速度によらず光速は一定であるという原理です。ガリレオの相対性原理では光速に近い速度で運動する物体についてはを説明できませんでした。アインシュタインは力学だけでなく、電磁気学や光学についてもあらゆる慣性系で同じ形で表されるという仮説を提唱しました。これは特殊相対性原理と呼ばれています。ガリレオの相対性原理では説明できない例を示します。

2.1.同時性

 一般的な感覚では同時に見える現象でも、その現象を見ている立場によって同時ではなくなるという事が起きます。

 速度\(V\)で移動し、中央に光源がある電車があるとします。電車の両端をA、Bとします。この光源から発せられた光を電車の外にいる静止系の人(座標\(\boldsymbol{O}\))から見た場合と電車の中にいる人(座標\(\boldsymbol{O’}\))から見た場合について考えます。図2は座標\(\boldsymbol{O’}\)から見た場合の概要図です。

\(A\)
\(B\)
\(V\)
\(O\)
\(O’\)
\(x\)
\(x’\)
\(y’\)
\(y\)
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 図2

 光源と一緒に移動しているため、光源から出た光はAとBそれぞれに同時に到達します。それに対して座標系\(O’\)から見た時は光源が相対的に移動しているためどうなるでしょうか。これを表したのが図3です。

\(A\)
\(B\)
\(V\)
\(O\)
\(O’\)
\(x\)
\(x’\)
\(y’\)
\(y\)
\(A\)
\(B\)
\(V\)
\(O\)
\(O’\)
\(x\)
\(x’\)
\(y’\)
\(y\)
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図3

 電車は\(x\)軸方向に進んでいるため光源から出た光に対して後ろ側のAは近づき、前側のBは離れていくことになります。Aに到達するまでに光が進む距離は短くなり、Bまでの距離は遠くなります。そのため光がAに到達した時点で反対側はBまで到達していないことになります。その後少し時間が経過してからようやくBに到達することになります。座標系\(\boldsymbol{O’}\)から見た場合には同時に起きた現象が、座標系\(\boldsymbol{O}\)では同時に起きてないという事です。

 光速に近い運動を考える場合にはこのように直観に反する現象が起き、ガリレイ変換では対応できなくなりました。そこでアインシュタインは光速に近い運動を考える場合でも、あらゆる慣性系で物理法則を同じ形で表せるという特殊相対性原理という仮説を提唱し、特殊相対性理論でそのことを示しました。

 次回の記事でローレンツ変換の導出を行います。よろしくお願いします。

 参考文献
1.相対性理論、中野董夫
2.趣味で相対論、広江克彦
3.宇宙創成、サイモン・シン、青木薫 訳

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