【高校物理:力学】運動の3法則

 今回は高校物理の力学で出てくる3つの基本法則についてです。今回扱う基本法則は力学における出発点となる法則になります。

1.慣性の法則(第1法則)

 第1法則は慣性の法則で、力を受けていないまたは力がつりあっている物体について次の2つのことを言っています。

①力を受けていないまたは力がつりあっている物体が静止している時、物体は静止し続ける

力を受けていないまたは力がつりあっている物体が運動している時、物体は同じ速度で運動し続ける

 ①は書いてある通りです。静止しているものが何の要因もなく動き出すことはないということは納得してもらえると思います。中学の理科でも少し出てきたような気もしますが、②は違和感を抱く人もいるかもしれません。ボールを転がすとどこかで静止し、自転車で一定の速度を保つにはペダルを漕ぎ続ける必要があります。これは摩擦や空気抵抗があり力を受けているためです。②の状況は摩擦が非常に小さい氷の上を滑るイメージが近いです。空気抵抗がない空間で摩擦がない氷の面上で滑り出すと、その面が続く限り止まることはありません。①と②はどちらも現在の状態を保とうとしていて、その性質を慣性と言います。

 力がつりあいについては次回触れますが簡単に説明します。右方向だけに力がはたらくと右方向に動き出しますが、左方向にも同じ大きさの力がはたらくとその場から動きません。綱引きで両者が同じ力で引っ張り合っていて動かない状態です。これを力のつりあいと言います。力がつりあっていると左右で力を打ち消しあい、慣性の法則はこの場合も成り立ちます。

 ここで2点補足します。1点目です。イメージしやすいように物体と書きましたが、慣性の法則は物体だけでなく座標系(空間)に関しても成り立つ法則です。図1のように、一定速度で進んでいる電車を考えます。地上で静止している座標系を\(O\)とします。座標系\(O\)は静止しているため静止し続けます。①の状況です。次に、一定速度\(\boldsymbol{v}\)で移動している電車は物体であるため慣性を持っています。電車の中は空間になっていて、その空間も電車と全く同じように移動しているため慣性を持っています。そのためこの電車内の空間に座標系\(O’\)を設定すると、座標系\(O’\)も同様に慣性の法則が成り立つことになります。

\(v\)
\(O\)
\(O’\)
\(x\)
\(x’\)
\(y’\)
\(y\)
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図1

 2つ目の補足は慣性系についてです。慣性系とは等速直線運動をしている座標系のことです。静止している座標系も慣性系に含みます。慣性の法則が成り立つと、等速直線運動をしている座標系には力がはたらいていないか力がつりあっていることになります。図1の地上で静止している座標系\(O\)も、電車内の座標系\(O’\)も慣性系です。一方で2章でやる第二法則から、力が加わると加速度が生じます。加速度が0でない座標系は非慣性系と言います。加速中の電車内の座標系\(O’\)が非慣性系に該当します。

 余談です。慣性はガリレオが最初に発見しました。当時地球の周りを様々な天体が回っているという天動説が信じられていて、慣性が地動説を有力にする1つの要因となりました。コペルニクスとケプラーが地動説を提唱しましたが受け入れられなかった理由の1つに、地球が動いているとしてその運動を何故感じることができないのか説明できなかったためです。太陽の周りをまわっているとすると遠心力等の力を感じるはずです。そこでガリレオが慣性の法則によって天動説派の反論を論破しました。広く受け入れられるまではその後しばらく時間がかかりましたが。宇宙空間はほぼ真空で空気抵抗も摩擦もないため、太陽の周りを地球が公転する運動は②の状況の1例です。回転運動ではありますが短時間の運動として考えると等速直線運動とみなせます。実際に地球は太陽の周りを凄まじい速度で回っています。それでも私たちは静止していると思い込んでいます。このような考えからガリレオの相対性原理が生まれ、アインシュタインの思考実験で使われて特殊相対性理論に発展していきます…。

2.運動方程式(第2法則)

 第2法則は式(1)で表される運動方程式のことです。非常に重要な式です。

$$\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a}\tag{1}$$

$$\begin{align}\boldsymbol{F}&:力[\mathrm{N}]\\
m&:質量[\mathrm{kg}]\\
\boldsymbol{a}&:加速度[\mathrm{m/s^2}]\end{align}$$

 力\(F\)が質量\(m\)の物体にはたらいた時、加速度\(a\)が生じるという関係式です。前章でも出てきた力について少し説明します。\(F\)はForceの頭文字で、式(1)によって定義されます。運動の変化(速度の変化)は加速度\(a\)として表されて、その運動の変化の原因となるものが力という物理量です。式(1)では質量と加速度の積として表されます。力の単位は[N](ニュートン)で、右辺の単位と比較すると[N]は[kg・m/s\(\mathrm{^2}\)]と一致します。力を求める問題で計算結果の単位が合ってるか確認するために知っておくと良いです。

 式(1)の理解としては、物体に力がはたらいたことが原因となってその結果加速度が生じると考えると良いと思います。図2を使って説明します。

\(m…
\(m…
\(m…
\(3…
\(2…
\(F…
\(a…
\(2…
\(3…
(1).質量が一定
(1).質量\(m\)が一定
(2).力が一定
(2).力\(F\)が一定
\(m…
\(F…
\(a…
\(\f…
\(F…
\(2…
\(2…
\(F…
\(\…
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図2

1.質量\(m\)が一定の場合
 一番上の質量\(m\)の物体に力\(F\)がはたらいて\(a\)の加速度が生じる例を基準とします。力が2倍になり2\(F\)がはたらくと、質量が同じ場合式(1)から加速度も2倍の2\(a\)になります。同様に力が3\(F\)になると加速度も3\(a\)になります。質量が一定であれば力に比例して加速度が大きくなります。

2.力\(F\)が一定の場合
 質量が2倍の2\(m\)の物体に力\(F\)がはたらいた場合、加速度は半分の\(a\)/2になります。逆に質量が半分の\(m\)/2の物体では加速度が\(2a\)になります。重ければ動かしにくく、軽ければ動かしやすいということです。質量は物体の動きにくさを表します。

 運動方程式はこのような関係式です。力がなければ加速度は生じません。これは第1法則の内容とも一致します。この式は実験によってのみ得られるもので、他の法則等から導けるものではありません。これについては4章で書きます。

 余談です。高校物理で学ぶ力学はニュートン力学と呼ばれ、アイザック・ニュートンが運動の3法則を元に力学をプリンキピアという本で体系的にまとめたものです。力の単位もニュートンの名前から取られています。プリンキピアでは運動方程式は式(1)のような形ではなく、力積によって運動量が変化するというような書き方だったようです。興味がある方は参考文献3、4、7を見てみると良いと思います。

3.作用・反作用の法則(第3法則)

 第3法則は作用反作用の法則です。台パンすると手が痛くなるのはこの法則のせいです。手が台をパンする時、台もまた手をパンしているのだ。

 真面目に書きます。物体Aが物体Bから力\(\boldsymbol{F}\)を受けた時、物体Bは力\(\boldsymbol{F}\)と逆向きで同じ大きさの力\(\boldsymbol{-F’}\)が働くという法則です。

 地球と人間が万有引力で引き合うことや、手が物体を支えている状態がその1例です。後者を例に図と式を使って説明します。ここで重力と垂直抗力について軽く説明しておきます。詳しくは次回やります。重力はご存じの通り地球に引っ張られる力です。物体の質量を\(m\)、重力加速度を\(\boldsymbol{g}\)とすると重力は\(m\boldsymbol{g}\)になります。重力だけがはたらいていると運動方程式により加速度が生じますが、地面に置かれている物体は地球の中心に向かって落ちることなく地上で静止しています。これは地面が物体を押し返しているためで、静止している場合は重力と同じ力だけはたらきます。地面が物体を押し返すような力を垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)(Normal Force)と言います。手が物体を支えて静止している例に戻って、図3の支えられる物体を物体A、手を物体Bとします。

A
A
B
B
\(mg…
\(N…
\(N…
1.物体Aに注目
1.物体Aに注目
2.物体Bに注目
2.物体Bに注目
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図3

 1.物体Aに注目すると、下向きに重力がはたらいています。静止しているので、重力と同じ大きさで逆向きの垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)がはたらきます(\(\boldsymbol{N}=m\boldsymbol{g}\))。

 2.物体Bに注目すると、物体Aにはたらいた垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)の反作用の力として\(\boldsymbol{N’}\)がはたらきます。これを式として表すと式(2)になります。

$$\boldsymbol{N}=-\boldsymbol{N’}\tag{2}$$

 \(\boldsymbol{N’}\)は垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)と逆向きで同じ大きさの力です。これは2つの物体が接触する時に作用反作用の法則によって生じます。垂直抗力を上向きを正として向きを含めたベクトルとして表示しているので式(2)になります(図3で\(\boldsymbol{N’}\)が下向きになっているのはイメージしやすくするためです)。問題を解くときは\(\boldsymbol{N’}\)を下向きで垂直抗力と同じ大きさの\(N\)として考えると良いです。物体Aに注目した時に重力も垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)と逆向きで同じ大きさと書きましたが、\(\boldsymbol{N}=m\boldsymbol{g}\)となるのは力のつりあいによるもので作用反作用の法則から求まった\(\boldsymbol{N’}\)とは考え方が違います。作用反作用の法則は2物体間の相互作用によって生じる力です。

 この例では静止しているので垂直抗力は重力と一致し、手で物体を支える時物体の重力と同じ力を受けることになります。しかし、物体Aの重力を直接受けているわけではないため、物体を持って上下させると手が受ける力(垂直抗力\(\boldsymbol{N}\))は変わります。これを例題で見てみます。

4.基本法則について

 今回の3つの法則は他の法則等から導かれるものではなく、自然現象として実験からしか得ることができない法則です。このような法則を基本法則と呼び、ニュートン力学における出発点となる法則です。この3つの基本法則を元にして様々な物理現象を表す法則を導いていきます。ノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎さんが物理学について著書で述べていることを引用します。

「自然の法則を数学的に表現すること、そして個々の法則をばらばらに発見するだけでなく、その中から最も基本的なものをいくつか選び出し、それから他の法則が導き出されるような体系を作ること」(参考文献4、p.86)

 ニュートン力学では最も基本的な法則が今回の3つの法則ですが、物理学の分野によって基本法則は変わります。第2法則の運動方程式は光速に近い速度で運動している物体や、原子レベルのミクロの世界では成り立たないため別の法則を出発点としています。大学レベルの物理で特殊相対性理論と量子力学がそれに該当します。ニュートン力学はそれらの理論の近似になりますが、人間が観測できる範囲での現象を高い精度で記述しています。

5.例題

 作用反作用の章の図3に関連した問題です。初学者の方は解けなければ次回の記事を読んでから解くと良いと思います。

問題

 図4のように物体Bの上に置かれた物体Aが一体となって等加速度運動をしている。上向きを正とし、加速度を\(\boldsymbol{a}\)、重量加速度を\(\boldsymbol{g}\)、物体Aの質量\(m\)とする。
(1).加速度が上向きの場合に物体Aが受ける垂直抗力\(N_1\)を求めよ。
(2).加速度が下向きの場合に物体Aが受ける垂直抗力\(N_2\)を求めよ。

A
A
B
B
\(m…
\(a…
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図4

 この問題はエレベーターに乗っている時に感じる力がこの問題の状況に当てはまります。物体Bに注目すると、作用反作用の法則より手で物体を昇降させたときに手が受ける力も垂直抗力と同じになります。

 今回はここまでです。次は力のつりあいと重力・垂直抗力についてまとめます。例題の解説は次回の最後にします。

1.浜島清利、物理のエッセンス 五訂版、河合出版、2023
2.兵頭俊夫、考える力学、学術図書出版社、2001
3.有賀暢迪、ニュートンの運動の第2法則 —『プリンキピア』の基本原理の二つの解釈—、https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/250444/1/phs_14_49.pdf、『科学哲学科学史研究』第14号、2020
4.朝永振一郎、物理学とは何だろうか 上、岩波新書、1979
5.杉山忠男、理論物理への道標 上 三訂版、河合塾、2014
6.サイモン・シン、青木薫 訳、宇宙創成(上)、株式会社新潮社、2004
7.山本義隆、古典力学の形成 ニュートンからラグランジュへ、日本評論社、1997

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