\(\nabla\)演算子とは

 この記事では\(\nabla\)演算子と\(\nabla\)を使った演算についてまとめます。

1.\(\nabla\)演算子の定義

 \(\nabla\)の読み方はナブラです。高速ナブラという技名でサガシリーズでも使われていますね。素早くナブラを描くように斬りつける技です。\(\nabla\)演算子は偏微分を使った演算子で、式(1)のように定義されます。$$\boldsymbol \nabla=(\frac{\partial}{\partial x}, \frac{\partial}{\partial y}, \frac{\partial}{\partial z}) \tag{1}$$ 式(1)で表されているように∇演算子はベクトルです。各成分は\(x\),\(y\),\(z\)に関する偏微分となっていて、\(\nabla\)演算子の後ろに続く記号によって勾配(gradient)、発散(divergence)、回転(rotation)を表します。スカラー関数を\(A\)、ベクトル関数を\(\boldsymbol B=(B_{x}, B_{y}, B_{z})\)とすると、これらの演算は\(\nabla\)演算子を用いて式(2)~(4)で表されます。$$\mathrm{grad} A=\boldsymbol \nabla A \tag{2}$$$$\mathrm{div} \boldsymbol B=\boldsymbol \nabla\cdot\boldsymbol B \tag{3}$$$$\mathrm{rot} \boldsymbol B=\boldsymbol \nabla\times\boldsymbol B \tag{4}$$別の記事でこれらの演算子の意味を\(\nabla\)演算子を使わずにまとめています。

2.勾配(gradient)

 勾配の定義は式(5)です。勾配はスカラー関数の偏微分を成分に持つベクトルになります。$$\mathrm{grad} {\boldsymbol A}=(\frac{\partial A}{\partial x}, \frac{\partial A}{\partial y}, \frac{\partial A}{\partial z}) \tag{5}$$

 前述のように\(\nabla\)演算子は偏微分を使った演算子です。後ろに続く関数の種類によって演算が変わりますが、どの演算でも関数の成分を偏微分するということは同じです。\(\nabla\)演算子がスカラー関数に作用するとそのまま偏微分することになります。\(\nabla\)演算子はベクトルで3成分持っているため各成分についてスカラー関数を偏微分することになり、スカラー関数の各方向の偏微分を成分に持つベクトルとなります。これは式(5)の勾配と同じ意味となるため式(2)が成り立ちます。$$\mathrm{grad} A=\nabla A=(\frac{\partial A}{\partial x}, \frac{\partial A}{\partial y}, \frac{\partial A}{\partial z}) \tag{2}$$

3.発散(divergence)

 発散の定義は式(6)で、スカラーで表されます。$$\mathrm{div} {\boldsymbol B}=\frac{\partial B_{x}}{\partial x}+\frac{\partial B_y}{\partial y}+\frac{\partial B_{z}}{\partial z} \tag{6}$$

 繰り返しになりますが\(\nabla\)演算子はベクトルなので、\(\nabla\)がベクトル関数に作用する場合はベクトル同士の演算となります。ベクトル同士の演算では内積を取る場合と外積を取る場合があり、\(\nabla\)演算子とベクトル関数との内積の場合が発散です。式(3)の右辺を内積の定義に従って計算を行い、両方のベクトルの各成分同士をかけて足し合わせた結果は発散と同じものになることがわかります。発散を表す演算子は\(\nabla\cdot\) となり、\(\nabla\cdot\) の後に続くベクトルについて作用することになります。$$\mathrm{div} \boldsymbol B=\nabla\cdot\boldsymbol B=\frac{\partial B_{x}}{\partial x}+\frac{\partial B_y}{\partial y}+\frac{\partial B_{z}}{\partial z} \tag{3}$$

4.回転(rotation)

 回転は式(7)で定義されるベクトルです。$$\mathrm(rot) {\boldsymbol B}=(\frac{\partial B_{y}}{\partial z}-\frac{\partial B_{z}}{\partial y}, \frac{\partial B_{x}}{\partial z}-\frac{\partial B_{z}}{\partial x}, \frac{\partial B_{y}}{\partial x}-\frac{\partial B_{x}}{\partial y}) \tag{7}$$

 回転は発散と同じようにベクトル関数に作用する演算です。発散は内積でしたが、外積を取る場合が回転となります。回転を表す演算子は\(\nabla\times\)です。外積は掛ける順番が重要で、\(\nabla\)が先で後ろからベクトル関数をかけます。外積の計算はやや複雑ですが、外積の定義に従って計算すると式(4)が成り立つことがわかります。内積と外積については下記の記事でまとめています。$$\mathrm{rot} \boldsymbol B=\nabla\times\boldsymbol B \tag{4}$$

5.マクスウェル方程式を\(\nabla\)演算子で表す

 \(\nabla\)演算子を使った例としてマクスウェル方程式を\(\nabla\)演算子で表します。マクスウェル方程式の記事はこちら。

 \(\nabla\)演算子を使わない場合のマクスウェル方程式は次の4つの式で表されます。

$$\mathrm{div}{\boldsymbol{E}}=\frac{\rho}{\varepsilon} \tag{5}$$$$\mathrm{div}{\boldsymbol{B}}=0 \tag{6}$$$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{B}}-\frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t}=i \tag{7}$$$$\mathrm{rot}{\boldsymbol{E}}+\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}=0 \tag{8}$$

式(5)~(8)には\(\mathrm{div}\)と\(\mathrm{rot}\)が含まれています。発散、回転を\(\nabla\)を使った演算子の\(\nabla\cdot\)と\(\nabla\times\)を使って書き直すと以下のようになります。

$$\nabla\cdot{\boldsymbol{E}}=\frac{\rho}{\varepsilon} \tag{9}$$$$\nabla\cdot{\boldsymbol{B}}=0 \tag{10}$$$$\nabla\times{\boldsymbol{B}}-\frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t}=i \tag{11}$$$$\nabla\times{\boldsymbol{E}}+\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}=0 \tag{12}$$

 今回の記事は以上になります。

参考文献
1.物理のためのベクトルとテンソル、ダニエル・フライシュ著、川辺哲次訳
2.電磁気学, 砂川重信

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